ギターの固有振動(4)

ウルフトーンというものをご存知でしょうか?
ギターで低音から高音まで順に音をだしていくと、他の音より大きめの音がしたり、逆に小さめの音になったり、こもった感じの音になったりする箇所があるはずなのですが、そんな御経験はありませんでしょうか? この現象がウルフトーンと呼ばれているものです。一般に、ウルフトーンは、バイオリン、チェロ、などで目立つとされていますが、ギターでも発生します。この原因はずばり「うなり」と呼ばれる現象であり、その様子を説明したものがFig.4-1です。

             Fig.4-1


図において、振動数の近い基本波A(オレンジ色)と基本波B(黄色)を重ね合わせると、元々の2つの振動数とは異なる振動数の波(緑色)が発生します。
ギターの場合、弦の振動数とボディーの固有振動数が近い値になった時にこれと同じ状態になり、本来の弦の振動が影響を受けて、弦の振動が急激に減衰したり、増幅されたり、本来の弦の音色が損なわれてしまうのです。ちなみに、このうなり、ウォーンウォーンといった音になるので、狼が遠吠えしている声に似ているということで、ウルフトーンと呼ばれます。また、音が減衰したり、増幅したりするのは、2つの波の位相差に起因しています。山と山、谷と谷が重なれば増幅しますし、山と谷が重なれば互いに相殺して減衰してしまいます。

さて、このウルフトーン、楽器にとっては、言うなれば「厄介者」な訳ですが、残念ながら完全に回避することはできません。けれども、できるだけ影響を少なくしたいということで、チェロなどではウルフエリミネータというもの(おもり)を駒とテールピースの間に取り付けて、影響を軽減しています。弦におもりをつけるとはどういうことかと言いますと、要はボディーの固有振動数をずらしている訳です。ただ、連続的な音階を出せる楽器は、必ずどこかでウルフトーンに遭遇しますので、理想的には曲ごとに対策を変える必要があります。

ギターの場合には、チェロやバイオリンと違ってフレットというものがあるおかげで、音階が離散的に配置されています。そのため、ウルフトーンがちょうどフレットとフレットの間に位置するように、ボディーの固有振動数をずらしてやることによって、ウルフトーンの影響を軽減することが行われています。ただ、これは標準チューニングを基準していますので、例えばチューニングを半音ずらせば、ウルフトーンにちょうど当たってしまう、ということもあり得ます。プレーヤーの方は、弾き方を変えて影響が分からないようにしているという方もおられるようです。

以上、ギターの固有振動(1)~(3)でいろいろとお話しさせて戴きましたが、最終的にはこのウルフトーンをどうやって回避するかという命題に通じています。上記では、簡単にフレットとフレットの間に固有振動数をずらすと言っていますが、実はその方法は様々で、ブレーシングの幅や高さを変えて質量を変化させたり、部分的に削ったり、あるいは、ヘルムホルツ共振のところでお話したようにサウンドホールの断面積を変えたりと、ルシアーの方々は日々悩みながら自分なりの方法で回避策を考えておられることと思います。ギターは、ただ単に瓢箪の形をしたボディーに弦を張っただけの楽器ですが、本当に奥が深い楽器です。バイオリンの名器であるストラディバリウスの音の秘密を研究する研究者が世界各国にたくさんいますが、未だに結論は見いだせずに探求し続けています。ギター制作においても完成形をみることはきっと一生ないことでしょう。

ギターの固有振動にまつわるお話、一旦ここで締めたいと思います。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。

 

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