ギターの固有振動(3)

「ギターの固有振動(1)」では、ギターがヘルムホルツ共振と深い関係にあるということ、「ギターの固有振動(2)」では、ギターの固有振動数(共振特性)をどのようにして測定するか、についてお話しました。今回は、「ギターの固有振動(1)」を少し深堀りして、ヘルムホルツ共振の振動数の変化に応じて、ギターの固有振動数がどのように変化していくか、について見てみたいと思います。

「ギターの固有振動(2)」でもお話したように、ギターには主として2つの固有振動数があります。厳密には、2つ以外にも振動モードがあることが確認されていますが、メインは2つ(100Hz近傍と200Hz近傍)の固有振動数です。
ヘルムホルツ共振の振動数を変更するための最も簡単な方法は、サウンドホールの断面積を変化させることです。そこで、あるギターについて、サウンドホールの一部を紙等で覆い、その時の固有振動数をインパルス応答で測定してみました。その結果がFig.3-1です。

           Fig.3-1

図において、縦軸は固有振動数Hz、横軸はサウンドホールを覆った割合%、例えば、50%はサウンドホールを半分覆った場合を示しています。また、グラフの色は、青がヘルムホルツ周波数の理論計算値、赤が100Hz近傍の実測固有振動数(第1共振周波数と記載)、緑が200Hz近傍の実測固有振動数(第2共振周波数と記載)を示しています。

100Hz近傍の固有振動数はTOP板が全体に振動するモードと考えられていますので、ヘルムホルツ共振そのものに近い振動現象です。しかしながら、サウンドホールの断面積を徐々に小さくしていくと、100Hz近傍の固有振動数は徐々に低周波側に移動していくものの、ヘルムホルツ共振の振動数とは、正確には一致していないことがわかります。これは、ヘルムホルツの固有振動数の計算式自体が実際の条件とは異なる理想的な条件(cf.「ギターの固有振動(1)」)を前提としているためと考えられます。正確な一致はないものの、同様の比例的傾向を有してはいるようです。

一方、図より200Hz近傍の固有振動数はヘルムホルツ共振の固有振動数とはほぼ無関係であると言えます。200Hz近傍の振動はブリッジ付近のみが振動するモードと考えられており、ボディー全体に関わるヘルムホルツ共振からの影響はほぼないと考えて良さそうです。


以上の結果より、
ギターの100Hz近傍の固有振動数を移動させる方法として、ヘルムホルツ共振に関わるパラメータ(今回はサウンドホール断面積)を変更すればよいことが分かりました。これ以外にも、TOP、Side&Backの材質、厚さ分布や、ブレーシングの材質、パターン、質量(ブレーシングの高さや幅等)、多くのパラメータによって、固有振動数が影響を受けることは容易に想像できますが、まずは、ある程度制御可能な方法の1つを把握することができました。

続きはまた次回。

 

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