黄金比の話(3)

少し前置きが長くなりましたが、今回は黄金比をどのようにギターデザインに反映させているかについてお話したいと思います。

具体的には、以下の5点についてです。

(1)サウンドホール位置

(2)ボディーの外接形状

(3)ボディーの曲線形状

(4)ブリッジ形状

(5)ヘッド形状

では、それぞれについて説明していきます。

(1)サウンドホール位置

Fig.1に示すように、正五角形の5つの頂点を対角線(緑色の線)で結ぶと、おなじみの星形(五芒星)を描くことができます。実は、正五角形という形は黄金比と深い関係があり、各対角線が交差する点によって2分割される線分の長さは、黄金比で分割されます。例えば、Fig.1では、対角線BDとCEは交点Xで2分割されますが、

BX:XD = 1:φ

となっているのです。
また、対角線BDと正五角形の1辺BCにも以下のような関係があります。

BD : BC = Φ:1

不思議としか言いようがありません。

さて、ファイギターでは、サウンドホールの位置を決定するにあたり、Fig.2に示すように、ボディーの外接円(青色)に内接する正五角形ABCDE(黄緑色)の対角線BDとCEが交差する点Xを求めて、その位置をホール中心としています。これによって、ボディー全体において、「しっくりする位置」にホールを持ってくることができます。

(2)ボディーの外接形状

ご存知のとおり、ギターには大きな2つの膨らみがあり、全体として瓢箪のような形状をしています。(女性が座った時の後ろ姿に似ているとも言われていますが、この世知辛い世の中、セクハラと言われそうなのでやめときます、って、もう言ってしまってますが・・・)この膨らみをどの程度ふくらませるかは、正面から見たときのギターの顔の表情に影響します。また、プレーヤーにとっては弾き易さにも直接影響する部分でもあります。

ここで、すこし脱線。女性の後ろ姿の他にも、車を正面から見た時と同様、ギターを正面から見ると顔に見えてきませんか?ちょうどサウンドホールが一つ目小僧、あるいは、鼻となって、ブリッジが口です。このブリッジの形状によって、笑った顔にもなりますし、怒った顔にもなります。ファイギターでは、後述(Fig.5)しますが、口角を緩やかに上げた笑った顔としています。

さてさて、話を元に戻して・・・
ボディーの大枠を決めるにあたり、Fig.3に示すように、□α、□β、及び、□γの3つの長方形を並べ、この中に収まるようにしています。実はこれら3つの長方形の縦横比は黄金比になっているのです。これによって、ボディー形状を何となく「しっくりする形」にしています。 えっ? ホント? と、疑いを持たれている方、じーっと眺めてみて下さい。いかがでしょうか?

(3)ボディーの曲線形状

ギターは、ボディーとヘッドを結ぶネックライン以外は、直線でできている部分が殆どありません。ボディーに至っては、トップもバックも中心から周辺に向かって緩やかにカーブして作られています。また、横から見ると、ボディーの厚さも、ネック側は細く、そして、ボディエンド側は厚く作られていることがわかります。弦を押さえ易いように、指板もアールをつけてあるのです。

さて、ボディーの大枠は前述のとおり3つの黄金比長方形によって決めましたが、ボディーの曲線形状をどのように決めるべきか・・・ここでは、フィボナッチ数列からピックアップした数値を使って曲率を決定しています。具体的には、Fig.4に示すように、曲率の比がフィボナッチ数列にある、2:3:5:8になるようにしています。つまり、サイドカーブは比率が2,3,5となる半径の円を連続させてつなぎ合わせています。ちなみに、このFig.4はModel 30の図であり、Model20や50では、これとは異なるフィボナッチ数の比率を用いています。また、カッタウェイ部分もサイドカーブの比率に対して2となる曲率でカーブを形成しています。以上のようにして、大枠の「しっくり感」とともに、細部のカーブの「しっくり感」も与えています。

(4)ブリッジ形状

ブリッジも、フィボナッチ数からとった、一定の曲率の円の組み合わせで構成されています。Fig.5はその様子を示しています。サイドカーブの曲率と上下カーブの曲率は1:8の比率として、前述のとおり、両サイドの口角を上げて、笑った表情になるようにしています。ギターの好きな方は、毎日ギターを見ているかもしれません。そのギターが怒った表情をしていてはいい気分になれませんよね。微笑んだ表情を見ながら、そして、心地よいギターの音色を聞きながら、いい気分でいい時間を過ごして戴きたいものです。

(5)ヘッド形状

ヘッドについても、上部の3つのとんがり部分を、ブリッジ同様の考え方によりフィボナッチ数からとった、一定の曲率の円の組み合わせで構成しています。ヘッド形状というのは、ピックガード同様に、各メーカーで独特の形状をしています。ファイギターでは、加工面では時間はかかるものの、波、観葉植物の葉、あるいは、逆さにすると前髪のようにも見える3つのとんがりによって、左右非対称な特徴的なヘッドとしています。

現在のデザインは以上のとおりですが、例えば、ボディーの厚み方向の比率など、黄金比を取り入れることのできる部分はまだ沢山ありますので、時間がとれれば検討してみたいと思っています。そして、いかにして黄金比をギターデザインへ取り入れているかという話を、ここでひとまず終わりにしたいと思います。

長い話にお付き合い戴き、ありがとうございました。

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